数ならぬ

理学系のこと、特に数学について書きます。雑学的な知識もまとめていく所存。

ヘロヘロな時にこそヘロンの公式

 私事だが、最近運動を活発に行うようになってきた。健康上の懸念とかそういうのではなく、ただ単にやりたいからやっているだけだ。汗を流すのはこの寒い(あき) だととても気持ちいい。夏はまあ、立っているだけで運動みたいなものなので、あまりしていなかった。

 

 さて、運動をして疲れているときにはどうするべきだろうか。そう、数学をするのだ。小学校の頃を思い出してみると、三角形の面積を求めるというのは、結構な大事だったような気がしてくる。

 

 学習指導要領をチラ見すると、三角形の求積を学習するのは第五学年、要するに小学五年生のときだった。私の微かな記憶では、裁ち合わせみたいなことをして三角形の面積を四角形の面積に直して計算をしていた。

 

 念の為、三角形の面積の求め方を復習したのちに、ヘロンの公式について掘り下げていこう。

 

 三角形の面積公式という言葉はいくつかの定理のまとまりを表しているように思えるので、簡単な面積公式から見ていこう。

 

 第一に、「面積は底辺\times高さ\div2」であるという標語で我々の頭に染み付いている公式だ。この公式を理解するには、底辺と高さという概念への理解が必要だった。

 しかし、底辺というのはいくつかの中から選択可能な概念なので、定義するのは面倒そうである。よってここでは「辺に対する高さ」を定義して済ませようと思う。

三角形のある辺の高さの定義

\triangle ABCに対して辺ABに対する高さを、ABを延長した直線をlとして、lと対角Cからおろした垂線の交点をHとしたときのCHの長さとして定義する。またこのときの辺ABを底辺という。

定義の可視化

 このようにして高さという概念を定義した。高さは英語でheightであるので高さを表す記号としてはよくhが使われる。この高さという概念と底辺という付随物を使うと三角形の面積を簡単に求めることができる。

最も原始的な三角形の面積公式

\triangle ABCの底辺の長さをb、その底辺に対する高さをhと書くと、

三角形の面積SS=\dfrac{bh}{2}と書くことができる

Proof

三角形\triangle ABCの面積をSとおく。また、底辺ABの長さをb、高さをhとおく

場合わけをして証明する。対称性により\triangle ABCの底辺を辺ABと定めた時のみについて証明する。Cから底辺に向かって垂線をおろした時、辺ABを延長した直線とどこで交わるかによって場合わけをする。垂線と直線の交点をHと書く。

 

ベースとなる、HA,Bのどちらかの点に一致した時を示そう。

直角三角形の場合

これは180°回転させた図形と組み合わせることで長方形の面積を求める問題に帰着される。

こんな感じに合体させるとこれは垂線の定義と三角形の合同により長方形になる。

長方形の面積は簡単に求められて、縦\times横をするだけだった。横は底辺のことであり、縦は高さのことである。よってこの長方形の面積はbhである。

この長方形は求めたかった三角形二つをくっつけたものなので、S=\dfrac{bh}{2}が成り立つ。

 

Hが辺ABの間にある時を示そう。

既視感のある図

 このような時S\triangle ACH\triangle BCHの面積を各々Q,Rとおいた時にR+Qと一致することは認めてしまって構わない。面積はそのような性質を満たす量として定義されるからである。

 AH=sBH=tとおくと、定義によってAB=s+tである。さて、これらの量を用いてQRの面積を求める。

 

 Qの求積

底辺の長さはsで高さはhであり、前の結果を流用すれと、Q=\dfrac{sh}{2}が成立する。

 

 Rの求積

Qと同じようにする。底辺の長さはtで高さはhなのでR=\dfrac{th}{2}

 

 これらの結果を合わせると、S=Q+R=\dfrac{sh}{2}+\dfrac{th}{2}=\dfrac{h}{2}\times(s+t)=\dfrac{bh}{2}

 

HABの外側にあるときを最後に示す。

これで場合わけも最後。

 ここで、\triangle AHCの面積をQ\triangle BCHの面積をRとおくと、[tx:S=Q-R]が成り立っている。ここで、Q,Rはそれぞれ元の三角形が直角三角形なので簡単に求められる。AH=s,HB=tとおくと、b=s-tが成り立つことがわかる。

 

 Qの求積

底辺はs、高さはhであるのでQ=\dfrac{sh}{2}

 

 Rの求積

底辺はt、高さはhであるのでR=\dfrac{th}{2}

 

 これらを引き算すると、S=Q-R=\dfrac{sh}{2}-\dfrac{th}{2}=\dfrac{bh}{2}

三つの結果を合わせるとS=\dfrac{bh}{2}であることがわかる◽︎

非常に綺麗な結果となった。Sはどこに高さがあろうとも「底辺\times高さ\div 2」になることがわかった。

 

 さて、この公式をうまく変形することで第二の公式が得られる。

 ここで、三角形の合同条件について考えてみる。三角形の合同条件によると、二辺とその間にある角が等しい三角形は合同であった。また合同である三角形は面積が等しい。

 この論理の流れから、高さに依存せずとも二辺とその間にある角によって面積を求められるのでは、と思える。実際にそのような方法は存在する。それが第二の公式であり、高校数学での面積の求め方だった。

三角関数を用いた三角形の面積公式

\triangle ABCの面積Sは辺AB,ACの長さb,cとその間の角\thetaによって

S=\dfrac{bc\sin\theta}{2}

とかける

 証明は先ほど得られた三角形の面積公式の高さを消去する形で行われる。

Proof

三角比の定義を用いて証明を行う。\thetaの大きさで場合わけをする。

0<\theta<\dfrac{\pi}{2}のとき

図は以下のようになる

三度目の登場。

ここで、\sin\thetaを求めると、三角比の定義によって\sin\theta=\dfrac{h}{c}となることがわかる。よって高さを消去するように変形するとh=c\sin\thetaとなって、S=\dfrac{bh}{2}=\dfrac{bc\sin\theta}{2}

 

\theta =\dfrac{\pi}{2}のとき

\thetaが直角のとき

というふうな図となる。これの\sin\theta1となる。直観的に三角比で高さを表すことは難しいがh=cが成り立っていることを利用すると、h=c\sin\thetaが成り立っていると思える。

 よって面積の式はS=\dfrac{bc\sin\theta}{2}と表せる。

 

\dfrac{\pi}{2}<\theta <\piのとき

鈍角のとき

この時には\sin\theta=\sin (\pi-\theta)となることと、\sin\angle CAH=\dfrac{AH}{AC}=\dfrac{h}{c}となることを合わせて、\sin\theta =\dfrac{h}{c}が導ける。

よって、面積は

S=\dfrac{bc\sin\theta}{2}

と書くことができる。◽︎

 だんだんとヘロンの公式に近づいてきた。ここで、次の定理を認める。証明はここを見よ。

余弦定理
\triangle ABCの三辺AB,BC,CAの長さをc,a,bとおく。このとき、BC,CAの間の角を\thetaと書くと、c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta

 逆に言えば辺の長さから角度の情報が定まるということであり、ここではたと、この公式で三角形の面積公式の\sin\thetaを消せるのではないか、と気づく

 実際にそれを実行してみよう。

辺の長さの設定は余弦定理の中で述べられているものと同じようにする。

とりあえず面積公式を二乗する。辺の情報から角度の情報が得られるのは\cos\thetaだが、面積公式に入っているのは\sin\thetaである。このねじれを解消するために、二乗することで\sin {}^2\theta=1-\cos {}^2\thetaの式で\sinから\cosにスイッチできる。

四回目の登場

 このような三角形に対して角度\theta=\angle BACとして面積公式はS=\dfrac{bc\sin\theta}{2}と書くことができる。これを二乗するので、S^2=\dfrac{b^2 c^2 \sin {}^2\theta}{4}

\sin {}^2\theta=1-\cos {}^2\thetaの式を代入すると、S^2=\dfrac{b^2 c^2 (1-\cos {}^2\theta )}{4}\cdots

 

 ここで余弦定理を用いて\cos\thetaを辺の長さだけで表す。a^2=b^2+c^2-2bc\cos\thetaであり、これを\cos\thetaに対して整理すると

\cos\theta=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}

 これを①に代入してやると

S^2=\dfrac{b^2 c^2}{4} \bigg(1-\bigg(\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}\bigg)^2\bigg)

 ここでx^2-y^2=(x-y)(x+y)因数分解公式を使うと、

S^2=\dfrac{b^2 c^2}{4} \bigg(1-\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}\bigg)\bigg(1+\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}\bigg)

 通分すると

S^2=\dfrac{b^2 c^2}{4} \bigg(\dfrac{-b^2+2bc-c^2+a^2}{2bc}\bigg)\bigg(\dfrac{b^2+2bc+c^2-a^2}{2bc}\bigg)

 x^2+2xy+y^2=(x+y)^2によりまとめると

S^2=\dfrac{b^2 c^2}{4} \bigg(\dfrac{a^2-(b-c)^2}{2bc}\bigg)\bigg(\dfrac{(b+c)^2-a^2}{2bc}\bigg)

 再び因数分解公式で分解して整理すると

S^2=\dfrac{1}{16} (a-b+c)(a+b-c)(a+b+c)(-a+b+c)

 

s=\dfrac{a+b+c}{2}とおく。すると2s=a+b+cとなって2(s-a)=-a+b+c2(s-b)=a-b+c2(s-c)=a+b-cが示される。

 

これらを上の式に代入すると、

S^2=s(s-a)(s-b)(s-c)

が導かれる。

 なんと面積公式が非常に綺麗にまとまっている!!上の式をS\ge 0であることから平方根をとってやるとS=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}が導かれる。この等式はヘロンが証明を与えたことからヘロンの公式と呼ばれる。

ヘロンの公式

三角形の三辺の長さをa,b,cとおいて、s=\dfrac{a+b+c}{2}とおくと、その面積S

S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}と表せる

ここから特定の三角形の面積が導かれる。

正三角形の面積公式
正三角形の一辺の長さをaとすると、その面積は\dfrac{\sqrt{3}}{4} a^2

Proof

ヘロンの公式にaを代入する。s=\dfrac{3}{2} aであることから、S=\sqrt{\dfrac{3a}{2}\dfrac{a}{2}\dfrac{a}{2}\dfrac{a}{2}}=\dfrac{\sqrt{3}}{4}a^2\hspace{1mm}◽︎

 付け加えておくと、ヘロンの公式がここまで美しいことは偶然ではない。三角形の辺は一般に対称性を持っている。どの辺の長さのラベルを交換しても、三角形は変化しない。つまり面積が対称式として書き下せるというのは自然なことだ。

 それにしてもヘロンの公式は美しい。どんなに理由があろうと美しいと思う気持ちは変わりようのないことである。