数ならぬ

理学系のこと、特に数学について書きます。雑学的な知識もまとめていく所存。

ルートの中にルート?

 みなさま、このような式をご覧になったことがございまして?

 
\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}=\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\cdots}}}}

 ただルートをかけ続けるだけなのに、左辺には黄金比で知られる\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}という数が現れるのだ。どういう仕組みでこんな等式が成り立っていると言えるのだろうか。今回はこの無限ルートの謎に迫っていきたいと思う。

 

 まずはとりあえず、計算を楽しんでみよう。別に楽しまなくてもいい。お手元に関数電卓があるのだったら非常に心強いだろう。なかったとしてもwolfram使えばいいのではという疑問は胸の中にしまっておくとする

計算例

\sqrt{1}=1

\sqrt{1+\sqrt{1}}=1.4142\cdots

\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}=1.5537\cdots

\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}=1.5980\cdots

\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}}=1.6118\cdots

\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}=1.6180\cdots

 確かに、ゆっくりとだが1.61くらいの値に見た感じは近づいていっている。つまり冒頭の式は正しそうである。驚き!!

 この奇妙な結果を示すためにはどうしたら良いだろうか。こういう時は共通する手続きを観察することが大切である。ルートをn回使ったような式の値をa_nと表してみる。

 たとえばa_4=\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}を観察すると、ルートの内部にa_3が隠れていることがわかる。具体的には下線部がa_3である。a_4=\sqrt{1+\underline{\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}}

 これを置き換えるとa_4=\sqrt{1+a_3}となる。この関係は添字がどんな値でも成り立ちそうだ。つまり、我々は次のような関係式を手に入れた。

漸化式
a_{n+1}=\sqrt{1+a_n}
 また初期値はa_1=\sqrt{1}=1である。よって数列a_nは実は次のように定義される数列ともみなせる。
数列の再帰的定義
a_{n+1}=\sqrt{1+a_n},a_1=1を満たすa_nが今回考えている数列である

 つまり、我々が考えるべきたくさんルートを被せると\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}に収束するという問題は、実は次のように言い換えられる。

問題の言い換え
\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}

 びっくり飛び道具式がただの極限の問題に帰着されたのである。諸手を挙げて喜ぼう。わーい。

 さて、漸化式の極限を求めるときに、次の定理が強力である。

[a,b]微分可能な実数から実数への関数\hspace{1mm}f(x)に対して\hspace{1mm}\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c)となるa<c<bが存在する

 この定理が漸化式とどう結びつくか分かりづらいと思うので、実際に適用しながら考えてみよう。

まずは補題をいくつか証明する必要がある。

a_nに成り立つ不等式
1\leq a_n<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}
Proof

帰納法により示す 。

n=1のときには数値計算により正しいことが示される。

n=kのとき正しいとして、n=k+1のときを示そう。a_{k+1}=\sqrt{1+a_k}より、\sqrt{1+a_k}が不等式を満たすことを示せば良い。

まず、下からの評価は簡単である。a_kは正であるので、a_{k+1}=\sqrt{1+a_k}>1が成り立つからである。よって以降は上からの評価を行う。

\bigg(\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\bigg)^2=\bigg(\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\bigg)+1が成り立つことを利用する。帰納法の仮定により、\sqrt{1+a_k}<\sqrt{1+\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}}=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}が成り立つ。これによってa_{k+1}<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}も示せたので、帰納法により題意は示された◽︎

 これによってa_nは一定の区間にとどまることが示された。さて、ここから平均値の定理を用いる。手始めに、漸化式を書き換える。

漸化式

f(x)\stackrel{\mathrm{def}}{=}\sqrt{1+x}と定義する。

このときa_{n+1}=f(a_n)が成立する

 証明はつけなくて良いだろう。ただ置き換えただけである。このときf(x)について次のような式が成り立つ。

f\bigg(\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\bigg)=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}

 これはa_nに成り立つ不等式の証明中で示した恒等式から明らかに成り立つ。また証明中にもこの補題を用いている。このように関数f(x)においてf(\alpha)=\alphaを満たす点\alphaf不動点と呼ぶ。段々と平均値の定理の使い方が浮かんできたのではないか。そうだ。平均値の定理は次のようにつかう。

収束の速さ
\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}-a_{n+1}\leq \dfrac{1}{2}\bigg(\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}-a_n\bigg)
Proof

平均値の定理を使いたい。f(x)=\sqrt{1+x}0\leq x\leq\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}微分可能なので平均値の定理を閉区間[a_n,\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}]で使うことができる。

\dfrac{a_{n+1}-\alpha}{a_n -\alpha}=\dfrac{f(a_n)-f(\alpha)}{a_n -\alpha}と変形できるので、\dfrac{f(a_n)-f(\alpha)}{a_n -\alpha}=f'(c)(a_n<c<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2})が導ける。f'(x)=\dfrac{1}{2\sqrt{1+x}}とかける。ここでこの関数の[a_n,\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}]での最大値を求める。f'(x)は明らかに単調減少なので区間の左端で最大値を取る。つまり、\dfrac{1}{2a_{n+1}}が最大値。これを定数で抑えたいので、不等式1\leq a_{n+1}を思い出すと、f'(c)\leq\dfrac{1}{2}が示された。ここから

\dfrac{f(a_n)-f(\alpha)}{a_n -\alpha}=f'(c)\leq\dfrac{1}{2}が示せた

よってa_n<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}であるから題意は示された◽

 つまり、項番号を1増やすと誤差は0.5倍以下に縮まるということを表している。特に、\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}は系として示される。

 ここで、このことを体感するために、計算例を再び持ってくる。

計算例

\sqrt{1}=1

\sqrt{1+\sqrt{1}}=1.4142\cdots

\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}=1.5537\cdots

\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}=1.5980\cdots

\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}}=1.6118\cdots

\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}=1.6180\cdots

収束値との差は

\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{1}=0.61803\cdots

\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{1+\sqrt{1}}=0.20382\cdots

\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}=0.06426\cdots

\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}=0.01998\cdots

\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1}}}}}=0.00618\cdots

隣り合っている項を見ると誤差は0.5倍以下になっているのが簡単に見て取れる。