数ならぬ

理学系のこと、特に数学について書きます。雑学的な知識もまとめていく所存。

じゃんけんは大体何回で終了するか?

 初記事(怠惰によって嘘になってしまった)がこんなんでいいのか不安だが、タイトルを決めてしまったものは仕方ない。さて、今からアリス、ボブ、チャーリーのABC三兄弟姉妹でじゃんけんをすることを考える。多分誰が余ったお菓子一個を食べるかで言い争いでもしていたのだろう。

 これから考えるのはこの三人でじゃんけんをした時、大体何回で終了するかである。この何回、というのを確率と期待値を用いて求めようと思う。

 当然誰でも知っていると思うが、一応共通認識を得るためにルールを記述する。

 

一般的なルール
・出せる手にはグー、チョキ、パーの三つがあり、グーはチョキより強く、チョキはパーより強く、パーはグーより強い。
・同じ手同士はあいこの判定である。
・グーとチョキとパーが同時に出されたのなら、あいこである。

 

 このルールに加えて今回は一人が勝ち残るまでゲームを続けるという勝ち抜き戦について考えるので以下のルールが加わる。

 

追加されるルール
・じゃんけんに負けた人間はゲームから抜ける。ゲームの参加者が一人になったときゲームは終了し、勝ち残った人間が勝者となる。

 

 数学的モデルにするために、少し仮定を加える。

 

独立性の仮定
各々以前の手とは独立\dfrac{1}{3} の確率で手を出す
つまりチョキが三回続いたからと言ってチョキが四回目に出る確率が下がることはないし、グーでもパーでも同様である

 

 このかなり非現実的な仮定を加えることで考えるべき問題がグッと簡単になるのでどうか許してほしい。さて、今回考えている問題を数学的に言い表してみる。

 

問題
このじゃんけんゲームが終わるのに必要な回数をXと表す。この時、E[X]を求めよ

 

 求めるべき期待値は1つだけなのでそれ専用の記号を用意する。

 

定数Eの導入
Eを求めるべき期待値とする

 

 さて、このとき以下のような記法を導入する。

 

人数記法
参加している人数がn人のゲームを\fbox{n}と書く

 

 この記法の利点はゲームの推移が見やすい点にある。

 

一例
あいこ\rightarrowあいこ\rightarrowひとり脱落\rightarrow終了
をこの記法に従って書くと
\fbox{3}\xrightarrow{あいこ}\fbox{3}\xrightarrow{あいこ}\fbox{3}\xrightarrow{一人脱落}\fbox{2}\xrightarrow{一人脱落}\fbox{1}
というふうになる
 
 この記法が有効な理由は、このゲームは人数の推移だけを見れば十分であるからだ。アリスとボブとチャーリーは互いに対等なプレイヤーであり、同じ立場の人間であると見做せる。
つまり誰が脱落しても考えている問題に影響はなく、ただ人数の推移だけが問題となる。
 
 また、この記法が有用であるのは次の補題からも明らかである。
 
ゲームの推移確率
P(\fbox{m}\rightarrow\fbox{n})\fbox{m}から\fbox{n}に推移する確率とする。この時以下の等式が成り立つ:
P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{3})=\dfrac{1}{3}
P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{2})=\dfrac{1}{3}
P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{1})=\dfrac{1}{3}
P(\fbox{2}\rightarrow\fbox{2})=\dfrac{1}{3}
P(\fbox{2}\rightarrow\fbox{1})=\dfrac{2}{3}

 

Proof
P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{3})+P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{2})+P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{1})=1であることと
P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{2})=P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{1})が対称性によって成立することに注意する。
P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{3})が求まるとその他の確率が求められるので、3人でじゃんけんをした時にあいこになる確率を求める。
余事象としてあいこにならない確率を求める。「あいこにならない」という事象は「ちょうど二種類の手が場に出ている」事象と同義である
アリス、ボブ、チャーリーの出す手の組み合わせは全て\dfrac{1}{27}の確率で出現することを踏まえると、\dfrac{6\times3}{27}=\dfrac{2}{3}の確率で「あいこにならない」という事象は発生する。よってあいこになる確率は1-\dfrac{2}{3}=\dfrac{1}{3}である。
これによってP(\fbox{3}\rightarrow\fbox{n})系統の値は全て\dfrac{1}{3}であることが明らかになった。

 

続いて、P(\fbox{2}\rightarrow\fbox{n})系統の値を求めていこう。\fbox{3}の時と同じ要領でP(\fbox{2}\rightarrow\fbox{2})+P(\fbox{2}\rightarrow\fbox{1})=1が成り立つとわかる。今回はP(\fbox{2}\rightarrow\fbox{1})を求めてみよう。
「二人の人間がじゃんけんをして勝敗が決まる」確率は「ちょうど二種類の手が場に出ている」確率と同義である。二人でじゃんけんをするときの手の組み合わせは各々\dfrac{1}{9}の確率で出現することを踏まえると、「ちょうど二種類の手が場に出ている」確率は\dfrac{3\times2}{9}=\dfrac{2}{3}である
上で書いた議論によって、補題は全て示された◽︎

 

 上で示した補題によって、ゲームの遷移が簡単に書けるようになった。次からはいよいよゲーム全体の終了確率を求める。遷移図は次のようになる。

遷移図

 なぜドット絵かって?当然\LaTeXが上手くないからだ!

 遷移図を見ると次の2パターンが考えられる。

 

遷移のパターン
\fbox{3}\rightarrow\fbox{3}\rightarrow\cdots\rightarrow\fbox{3}\rightarrow\fbox{1}
もしくは
\fbox{3}\rightarrow\fbox{3}\rightarrow\cdots\rightarrow\fbox{2}\rightarrow\fbox{2}\rightarrow\cdots\rightarrow\fbox{2}\rightarrow\fbox{1}

 

 この2パターンの長さがn+1となる確率をそれぞれp_n,q_nとおく。\displaystyle E=\sum_{n=1}^{\infty}n(p_n+q_n)と書けることが定義よりわかる。早急に求めるべきはp_n,q_nである。よってそうする。
 
p_n,q_nの値
p_n=\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)^n
q_n=(2n-2)\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)^n

 

Proof
p_nはその実簡単に求められる。なぜなら、P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{3})=P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{2})=\dfrac{1}{3}が成り立っているからである。p_n=\underbrace{\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\cdots\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)}_{n\space times}=\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)^n
よりp_nの値が求められた

 

途中に\fbox{2}が入り込んでくるケースを考える。いつ\fbox{2}が初めて入り込んでくるのかで場合分けする。1\leq k\leq n-1ととる。k回目に\fbox{2}が初めて入ってくるときを考える。この時、幸運なことにP(\fbox{3}\rightarrow\fbox{3})=P(\fbox{3}\rightarrow\fbox{2})=P(\fbox{2}\rightarrow\fbox{2})=\dfrac{1}{3}であり、P(\fbox{2}\rightarrow\fbox{1})=\dfrac{2}{3}であるので、q_n=\underbrace{\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\cdots\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)}_{n-1\space times}\times\bigg(\dfrac{2}{3}\bigg)=2\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)^n
これによりq_nの値が求められた◽︎

 

 p_n+q_n=(2n-1)\times\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)^nであるので、\displaystyle E=\sum_{n=1}^{\infty}n(2n-1)\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)^n

 右辺の無限級数の値を求めたい。どうしてもである。今、厳密性を捨て去る時が来た。無限級数の値を求めるには心を鬼にしなければならない。今から無限を軽々しく扱う。

 

 関数f(x),g(x),h(x),F(x)を以下のように定義する。

 

f(x),g(x),h(x),F(x)の定義
\displaystyle f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}n(2n-1)x^n
\displaystyle g(x)=\sum_{n=0}^{\infty}nx^n
\displaystyle h(x)=\sum_{n=0}^{\infty}n^2x^n
\displaystyle F(x)=\sum_{n=0}^{\infty}x^n

 

 注目すべきことはf(x)=2h(x)-g(x)E=f\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)が成り立つことである。二つ目の式は添字に違和感があるかもしれないがn0を代入したら0項目が消失することから自明に成立する。

 

定理
E=\dfrac{9}{4}=2.25
 
 ようやくここまで漕ぎ着けた。長いといえば長く、短いといえば短い道のりはここで終わりを迎える。
 
Proof
g(x),h(x)を求める。項別微分可能性を仮定すると、g(x)=xF'(x)h(x)=xg'(x)という式が成り立つことがわかる。無限等比級数の公式によりF(x)=\dfrac{1}{1-x}が成り立つ。g(x)=xF'(x)=x\bigg(\dfrac{1}{1-x}\bigg)'=\dfrac{x}{(1-x)^2}

 

h(x)=xg'(x)=x\bigg(\dfrac{x}{(1-x)^2}\bigg)'=x\dfrac{(1-x)^2+2x(1-x)}{(1-x)^4}

 

=x\dfrac{1-x+2x}{(1-x)^3}=\dfrac{x(1+x)}{(1-x)^3}

 

E=f\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)=2h\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)-g\bigg(\dfrac{1}{3}\bigg)=3-\dfrac{3}{4}=\dfrac{9}{4}◽︎
 
 すなわち、三人で勝ち抜きじゃんけんを行うとき、大抵は2回で終了するということだ。確かにそれくらいでいつも終わっているような気がする。あくまで気がするだけであるが。これを4人やn人に拡張するのはできそうだけれども、ちょっとやめておこう。