数ならぬ

理学系のこと、特に数学について書きます。雑学的な知識もまとめていく所存。

一橋大学入試数学から何を学べるか?

  最近の一橋大学の入試問題で約数関数d(n)\sqrt{n}の大小関係が問われたようだ。なかなかいい問題を出すじゃないかとそこそこの上から目線を向けていたが、問題を一般化できることに気づいたので、そのことをまとめようと思う。

 

 ただ、入試問題というのは残念ながら著作権があり、そのまま使うといただけないので、とりあえず最終的に示すべき不等式を提示しようと思う。これ以降m, n\in{\mathbb{N}}とする。

 

問題
d(n)\leq\sqrt{3n}\cdots\cdots①を示しなさい。また、n=12において等号が成立することを示しなさい

 

 問題を解くとっかかりを見つけるのが一見難しそうであるが、実際には互いに素な数m, nについてd(mn)=d(m)d(n)が成り立つこと(乗法性)が知られているので素数冪の場合に問題を分解できることがわかる。n素因数分解して各素数冪の時に不等式を示せば良いのだ。

 

 さて、一般化を考えるとき、単純ではあるが次のような命題を考えることができるだろう。

 

一般化された問題
任意の正の定数\epsilonに対してある正の定数Mが存在して
d(n)\leq{Mn^{\epsilon}}\cdots\cdots②が成り立つことを示しなさい

 

 最初の問題は\epsilon=\frac{1}{2}の時、M=\sqrt{3}が取れてそれが最善であることを示す問題と読み替えることができる。ふむふむなるほど。

 

 このことについて証明をつけたい。ここで実際には最初の問題はあのような聞かれ方をしていないということを告白しよう。①の両辺を\sqrt{n}で割り算した形で定数分離されて聞かれていた。

 これを踏襲して、考えている問題についても②の両辺をn^{\epsilon}で割り算して、定数Mを分離しよう。すると②式は下のように書き直せる。

 

問題の言い換え1
任意の正の定数\epsilonに対してある正の定数Mが存在して、\dfrac{d(n)}{n^{\epsilon}}\leq M

 

 ここで見やすさのために新たな関数f_\epsilon (n)を定義する。

f_\epsilon (n)の定義
f_\epsilon (n)\stackrel{\mathrm{def}}{=}{\dfrac{d(n)}{n^{\epsilon}}}

 

問題の言い換え2
任意の正の定数\epsilonに対してある正の定数Mが存在して、f_\epsilon (n)\leq M

 

 なかなかスッキリした形に命題を書き直すことができた。つまりf_\epsilon{(n)}が有限になることを示せば良いのだ。そのために以下の補題を示す。

 

m, nを互いに素とする。この時
f_\epsilon (mn)=f_\epsilon (m) f_\epsilon (n)
が成り立つ

 

Proof
d(n)の乗法性とn^{\epsilon}の完全乗法性から自明に成立する◽

 

 補題1を有効に用いるためにn素因数分解すると\displaystyle n=\prod_{i=1}^{\infty} p_i^{e_i}(有限個のie_i\ge 1)という形に書ける。f_\epsilon (n)にこれを代入すると、

 

\displaystyle f_\epsilon (n)=f_\epsilon (\prod_{i=1}^{\infty} p_i^{e_i})\stackrel{\mathrm{補題1より}}{=}\prod_{i=1}^{\infty} f_\epsilon (p_i^{e_i})と変形できる。

 

p素数eを非負整数とする。このとき、
f_\epsilon (p^e)=\dfrac{e+1}{p^{\epsilon e}}

 

Proof
f_\epsilon (p^e)は定義から\dfrac{d(p^e)}{p^{\epsilon e}}であり、d(p^e)=e+1と変形できるので、題意は示された◽

 

 補題2を適用することで、\displaystyle \prod_{i=1}^{\infty} f_\epsilon (p_i^{e_i})=\prod_{i=1}^{\infty} \dfrac{e_i +1}{p_i^{\epsilon e_i}}と変形できる。\dfrac{e_r +1}{p_i^{\epsilon e_r}}e_rが十分に大きければ、1よりも小さくなる。よってe_rはある程度小さくないとf_\epsilon (n)は大きくなれない。

 

 また指数ではなく素因数の大きさにも注目してみよう。十分に大きい素因数p_rにおいて1\leq e_rが成り立っているのならば\dfrac{e_r +1}{p_r^{\epsilon e_r}}<1が成り立つことがわかる。であるので十分大きな素因数p_rではe_r=0が成り立っている必要性がある。

 

 上の二つの議論から、f_\epsilon (n)が最大となるようなnは有限の値であることがわかる。なぜならば、f_\epsilon (n)nの素因数の数がある程度より多いと小さくなり、素因数の指数がある程度より大きいと小さくなることが示されているからである。

 

 よってある有限の値Mが存在してf_\epsilon (n)\leq Mが成り立つことがわかる。

ここから、定理「任意の正の定数\epsilonに対してある正の定数Mが存在してd(n)\leq{Mn^{\epsilon}}」が示された◽

 

任意の正の実数\epsilonに対して極限公式
\displaystyle \lim_{n\to \infty} \dfrac{d(n)}{n^{\epsilon}}=0が成り立つ

 

Proof
上記の定理から\dfrac{\epsilon}{2}に対して、ある正の定数Mが存在して、d(n)\leq{Mn^{\frac{\epsilon}{2}}}が成り立つ。
両辺をn^{\epsilon}で割ると、\dfrac{d(n)}{n^{\epsilon}}\leq{Mn^{-\frac{\epsilon}{2}}}0<\epsilonより、\lim_{n\to \infty} Mn^{-\frac{\epsilon}{2}}=0が成り立つので、はさみ撃ちの原理を用いると、\displaystyle \lim_{n\to \infty} \dfrac{d(n)}{n^{\epsilon}}=0が成り立つことが示された◽

 

 定理をよりスローガン的に言い換えてみる。オーダー記法というものを導入する。

 

オーダー記法
十分に大きなnに対してある定数Mが存在して、\big\vert f(n)\big\vert\leq M\big\vert g(n)\big\vertが成り立つとき、これをf(n)=O(g(n))と定義する

 

 これを直観的に言い換えると、十分遠方では、f(n)g(n)によって定数倍の違いはあるかもしれないけれども抑えることができるということである。

 例えばx+\sqrt{x}, x+4を差によって比較すると、x+4x+\sqrt{x}の差は無限に広がり続け、x+\sqrt{x}\gg x+4が成り立つけれども、x+\sqrt{x}x+4も十分にxが大きいところでは2xによって抑えられるだろう。つまり、x+\sqrt{x}=O(x)かつx+4=O(x)が成り立つ。

 オーダー記法を用いて、定理を言い換えると次のようになる。

 

定理の言い換え
任意の正の定数\epsilonに対して
d(n)=O(n^{\epsilon})

 

 オーダー記法だと正の定数Mについての言明がなくなって、定理が見やすいのが利点である。